松阪叶翔(4年/MF/東急SレイエスFC U-18/大和高校)
僕は遠回りとか寄り道が好きです。
時間があるときは、いつもと違う道で帰ったり、逆方向に進んでみたり。
調べ物をするときも、その過程で興味深い記述があればどうしても脇道に逸れて、本題にたどり着くまでかなりの時間を浪費してしまいます。
効率化や合理性を求める社会において、この癖は厄介以外の何物でもありません。
「無駄」を徹底的に削ぎ落し、利益を最大化することが企業の目的だとするなら、多分僕は不必要な存在でしかないでしょう。
とうとう今年で大学4年生となり、来年から社会に出て働くことを考えたら、余計に不安な気持ちになります。
そんなわけで、学生サッカーもいよいよ最後の年になってしまいました。
最終学年となり、自分が部活に何を遺せるのか、そんなことを真剣に考える時間が増えてきました。
ただ、思考を巡らせれば巡らせるほど、余計な事が頭をよぎります。
情けないことに、集中力は大学入学から年々落ちてきて、最近は30分も持たないことが多いです。
受験期はもっと集中できたはずなのになぁ
北大への進学を決意し、そのことだけを考えて日々何時間も机に勉強にかじりついていたあの頃は、いま冷静に振り返ってみると異常な状態だったのかもしれません。
北大でなければならない明確な理由なんてなく、ただ親近感があったから選んだだけの大学でした。
僕が北海道への進学を決めた理由の一つに、母方の祖父母の存在があります。祖父母は北海道の岩見沢に住んでいて、岩教から車で10分足らずのエリアに暮らしています。小さい頃から長期休みのたびに祖父母の家に遊びに行っていたので、その頃から北海道の魅力に惹かれていたのだと思います。
大学進学してからも、頻度は多くないですが、会った時には部活の話やファイターズの話をするのが定番になっています。
祖父母はファイターズの熱狂的なファンで、家ではいつも試合が流れていました。祖父母の機嫌は試合の勝敗によって左右され、特に大差で負けているときの様子はよく覚えています。試合途中でもTVを切って文句を言いながら早々と寝室に向かっていく姿は、小さい頃の愉快な思い出の一つです。
僕も大学に入ってからはファイターズの試合をよく見るようになりました。
入学した年の2023年シーズンは弱すぎて話になりませんでしたが、翌年からは段々と勝てるチームになってきて、ばぁちゃんもご機嫌だと思います。
清宮、伊藤大海、齊藤友貴哉、良い選手はたくさんいますが、僕の一番好きな選手はやっぱりフランミル・レイエスです。HRが打てる、打率も高い、大事な試合で点が取れる、打撃専門のDHとしてこれ以上ない最高の選手です。
あとは名前が「レイエス」なのも最高です。僕にとってこんなに馴染み深い名前はありません。
高校時代に所属していた「東急SレイエスFC」は、関東の一部のサッカー界隈では名の知れたクラブチームでした。というのも、ジュニアユース(U-15)は関東リーグに所属しており、神奈川ではほとんど敵なしの強豪クラブです。
2019年、中学3年生のころに新たにユース(U-18)のカテゴリーが創設され、僕もその2期生として入部することになりました。新興チームにもかかわらず、前述のようにかなりのネームバリューがあったので、チームメイトにはJリーグの下部組織出身の選手も複数いるような非凡な環境でプレーすることができました。
入部当初は周囲のレベルに全くついていける気がしませんでした。
技術面・フィジカル面・サッカーIQといった頭脳面など、全ての要素でライバルたちに遅れを取っていたと思います。
そんなわけで、毎日の練習が試行錯誤の連続でした。
日々ライバルのプレーを観察し盗めるものは何でも盗む。頭の中で何度も動きのイメージを反復し、練習の合間に動きをまねてみる。できそうなら実戦で試す、失敗したら自己流にアレンジする。とにかくこのプロセスを何回も繰り返す。
最初は40点くらいのクオリティでも、試行回数を増やしていくごとに段々と理想に近づけていく。
この過程で何回ボールを奪われ、何本のパスが届かなかったか。
ただ、大量に積み重なった「無駄」が、その「遠回り」こそが、自分の豊かさやプレーの幅を広げる“近道”になっていたのだと思います。
僕は「無駄」とか「遠回り」を愛しています。
てか、神奈川から遥々北海道に来てまでサッカーをしているわけで、それ自体「無駄」なのだから。
大学までサッカーを続けてきた強い動機なんかありません。
勝利の高揚感を味合うためなら、最初からもっと強い部活に入った方が間違いなく”合理的”です。
ただ、僕が入部してから現在まで、この部活も「勝つ」ための様々な試行錯誤を続けてきました。
その過程を経て、毎年少しずつ成長を遂げています。
またそれは競技面だけに留まらず、組織の運営面でも着実に歩みを進め、昨季は全国大会出場まであと一歩のところまで辿り着きました。
僕らが入部した当初の、負けることが当たり前で、札大に0-3で負けても「今日は3失点で抑えたから上出来」なんて言うような、そんな負け癖が染みついた状態からようやく脱却しつつあります。
あの頃の「弱い北大サッカー部」を知る最後の学年として、「遠回り」から得た財産を組織に遺していくために。
引退まで残り約5か月。やるしかないっしょ。
しかし、嘆かわしいことに、5歳から始めたサッカーで培った「遠回りの美学」は、社会に適合するには不要な信条らしいです。
“効率的”で“合理的”な、そんな立派な社会人になるために、己の「全て」を出し切った空っぽの状態で、10月25日のホイッスルを聞けることを願います。
その日くらいは真っ直ぐ家に帰ろうかな。
#8 松阪叶翔

