Born To Be Wild

野中大幹(4年/FW/新宿)

2025/9/23

43°20′22″N
145°44′57″E

日本最東端をうたうセイコーマートに私たちはいた。
旅は今日で13日目。
朝、厚床町を出発し日本最東端根室のノシャップ岬を目指す。

昨晩、おそらくだれも知らないであろう厚床朝で見た星空は間違いなく旅のハイライトだ。
夕方からも朝から最も遠いような夜更けに不意に目が覚め、
面倒ながらも一応体を起こしテントから出る。
テントの外は古いゴルフ場だ。
少し間を置いて、昨晩ここを寝床に決めたことを思い出す。
用を足す間の手持ち無沙汰に上を見上げ、文字通り立ちつくした。
認識しきれない数の無数の光が自分に向かって降り注ぐようで、
それでいて無限に遠い彼方へ進んでいくようにも思える。
2, 3分言葉を失い、空を見上げた後
9月の北海道の夜の寒さに気がつきテントに戻った。
隣のテントで寝ている友人に伝えるか迷ったが、
余韻でもう動くのが面倒だった。
後で話すと友人も違う時間にしっかり星空を見て感動していた。
自然の力にあまりに圧倒されると、
ヒトは友達なんて忘れてしまうみたいだ。

そんな空にも今では太陽が昇り、
私たちの肌を真っ黒に焦がし、
すでに沈む準備まで始めている。
本当にそこにあの星空があったのだろうかと不思議に思う。
そしてもうあの星空を見ることはないんだろうと思う。
きれいな星空を見ることはあるかもしれない。
でも長い旅の途中の、誰も知らないような町で、
ティーンエイジの終わりを感じながら同じ星を眺めることはもうない。

そんなことを取り留めも無く考えながら自転車をこいだ。
毎日の楽しみである今日の夕飯はハンバーグらしい。
すでに根室市のスーパーでひき肉はゲットした。
道端でジャガイモもゲットした。
オールセンシェフは気合が入っていて、
そこら辺からローズマリーまでゲットしてきた。
見習いの野中シェフは今日も玉ねぎとかにんじんとかの
みじん切りに徹することになるだろう。

そんな夜の楽しみはあっても
やはり体の疲れは誤魔化せなくなってきている。
太陽光は一日中じりじりと体力を奪い、
いつものコンビニ昼ごはんは
食べてから一時間も経たずに胃袋から消え去ってしまった。
とりあえず味付き塩コショウを食べて
空腹をまぎらわせ、ついでに塩分も補給する。
両足の大腿四頭筋には乳酸がみっちり詰まっている。
それに出発してから、まだ数回しかお風呂に入ってない。
というわけで、ノシャップ岬へ向かう道にあった
銭湯、舞の湯によることが提案され即採決された。

今私たちは歯舞のセイコーマートにて
銭湯のお供となるビールを探している。
オホーツク海寄りの日本海に接したこの街には、
夕日が射し、停留している船の隙間から港を照らしている。
カモメは空を飛ぶことをやめ
倉庫の屋根の上に一列に泊まってしきりに鳴いている。
もう長らく、私たちの周りの世界では
人よりも動物のほうが多く現れる。
この歯舞町も人の気配はほとんどない。
「ここでサッポロクラシックを選んでもいいけど、
もっと濃いのがいいな。」
なんて思いながら、エビスの500mLの缶に指をかけた。

その時に聞いたピンポンという何者かの入店の合図。
そして入ってきた5 、6人の“男達”の姿を
私はなぜかを忘れることができない。
年季が入った大木を思わせるように焼けた黒い体と
荒れた海のように隆起した筋肉。
海辺特有の刺すような夕日を写す鋭い眼光。
周囲に漂う、かすかな潮の香り。
今日の仕事を終えた漁師たちなのだろう。
思い思いに仕事終わりの一杯とおつまみを買いあさっている。
仲間との至福の時間を前に、
潮と陽を長年浴び続けて硬くなった顔に笑顔が浮かぶ。
毎日太陽の下で、
荒れる海と闘いながら暮らす者たちの魂には、
強さと深さが拭いようも無く染み込んでいた。

名も知らぬ漁師たちが残していった余韻を感じながら、
私たちは会計を済ませ、再び自転車のハンドルを握る。
夜に向け日本海のざわめきは少しずつ消えていく。
もうすっかりひと気の無くなった道を私たちは進む。
青とオレンジに染まる澄んだ空気が、
乾季の終わりを告げる雨のように
ゆっくりと全身を満たして行った。

サッカーの世界に戻り半年余りが経った。
改めてこの競技の魅力に触れ、
戻れて良かったと思うと同時に
想像していた復活のシナリオとは
あまりにかけ離れた現実に
絶望を感じることも多かった。
肺は走るとすぐキリキリと音を立てて苦しくなるし
長い間使っていなかった速筋は返事もしてくれない。
一番変わってしまったと思ったのは心だった。
何も考えずに頑張るみたいなことができなくなっていた。
疲労だとか、チーム内での立ち位置だとか、
サッカー以外のことだとか、いろいろな言い訳を思いつくようになった。
大人になるってこんな風に
バカだとか本気っていう概念から
一歩一歩離れていくプロセスなんだなと思い悲しくなる。
冬にあった光星との練習試合では、
強度、判断、ポジショニング全ての点で
二年生の頃に出来ていたことができなくなっていることがわかった。
中盤で、不要なロストを2, 3回ほどして失点。
目の前にある課題の多さに、心が重くなった。

そんな日々の中、旅で出会ったあの漁師たちの記憶が
心のどこかで自分を支えてくれていた気がする。

不漁の日が続いても彼らは海に出る。
悪天候や疲れなんて当たり前。
そうやって過ごしてきた歳月が、
いつかヒトを強く優しく輝かせる。
朝、日が昇る前に船を出し
漁へ出かけていく彼らの姿を想像しながら
朝練に向かう。
私たちが戦うのは、大海原でなく
サッカーという世界。
気分が憂鬱だろうが、体に老いを感じようが
やらなきゃいけない。
気づけばもう四年生だ。
ベテラン漁師がお魚に負けていられないように
年下だらけの札大、岩教になんか負けていられない。

時間はかかったが90分走る体力は戻ってきたし
体重も自分にしては悪くない重さまで増えた。
速筋はあるべき場所に帰ってきてくれて、
メンタル面も悪くはない。
あとはアジリティとボールタッチのところと
最近不調の野中砲を調整すればいい。
唯一不安なのは体の至る所が
毎日代わりばんこに痛くなること。
モグラたたきでもやっている気分だがそれを除けば
最低限必要な歯車が一ずつ噛み合っていく音がする。
15年かけて1つまた1つと拾い上げてきた歯車だ。

この1年が終われば
サッカーという世界に戻ることはもうできない。
少しでも多く、土のにじんだ熱い汗を流したい
少しでも強く、敵チームを蹂躙したい
少しでも繊細に、ゴールネットが揺れる乾いたあの音を聞いていたい。
少しでも長く、試合終わりのみんなと、勝利を祝う歓喜の渦に包まれていたい

そこで得る言いようのない情動を
自分の胸に、生きた証として刻もう。

“Born To Be Wild” 今年のアイデンティティはこれで決まりだ。

PS:同期へ
今年はワールドカップとスティールボールランがあるのでどう転んでも最高のシーズンになりますが、最高のラストシーズンにしましょう!

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