道明紫音(3年/MF/北広島高校)
まずは部活の予定でカレンダーを埋め、合間を縫ってバイトを入れる。良いパフォーマンスができるよう日々自分の身体に気を遣いつつ、水曜、金曜は朝5時に車を飛ばして朝練へ。
全身全霊で毎試合挑み、勝てば心から歓喜し、負ければその日は寝られないほど悔やむ。
サッカーを続けて10年をゆうに越えた。サッカーは自分のアイデンティティであり、原動力であり、あらゆる出会いのきっかけだった。サッカーが無い生活は考えられなかったし、サッカーを引っこ抜いた自分に何が残るかわからないという怖さみたいなものも、続ける年数と比例して大きくなっていた。
ただ、4年間という大学生活にどこか区切れの良いポイントを探っていた自分もいた。折り返し地点の2年という数字は、最初に書いた生活とは違った新しい選択肢の存在を仄めかしていた。
プレーをしている時間はいつも没頭し、部のみんなといるときはたいがい笑う。みんなと食う飯はやっぱり美味いし、ジャンなんか楽しすぎる。
だが一人でいるときは、相当悩んだ。4年間という時間の使い方。今しかできないことの多さ。生半可な気持ちで部にいることで、組織のがんになってしまわないか。あらゆる自分の選択肢を潰してしまっていないか。
「道明紫音といえばチャラチャラしていて、薄っぺらい陽キャ」と同期や先輩たちにいじられても、悩んでいることが部員に伝わっていない証拠だと思い、安心していたのも事実だ。
怪我で走りたくても走れない仲間や、出たくても出られない仲間がいる中で、部員に相談するのだけは絶対にしない。そう思っていたが、信頼できるアニキみたいな先輩キーパーには何度か話を吹っ掛けたことがあった。
「さすがに寂しいけど、えーんちゃう?他にやりたいことあるんに、無理して続けることもないっしょ。」
日本語かも怪しい変な方言と共に、当たり障りなく、でも優しくそう言ってくれた憶えがある。就活で多忙だっただろう時期に話を聞いてくれて、感謝している。
(本人は適当に答えた可能性も否めないが。)
そして悩んだ末決めた。
『今年いっぱいで区切りをつけよう。』
残り2年は今までとは味の違う生活、体験をしよう。
様々な角度の有意義さを求めよう。
サッカー以外のアイデンティティを見つけにいこう。
だからラストシーズン、死ぬ気で、本気でサッカーに捧げよう。
そう決めて走り出した2024シーズン…
11月、シーズンを終えた後、ふと振り返ってみた。
右サイドハーフとしてトップの公式戦にはほぼすべて出させてもらい、とくに大怪我も離脱もなく走り抜けた約半年。いいプレーも悪いプレーも苦しい守備も大カウンターも何回も蹴ったコーナーも、全部詰まった約半年。
サッカー人生ラストシーズンと誓って奮起した半年間は、瞬く間に過ぎ去り、幕を閉じた。
いくつもドラマがあった。
総理大臣杯準々決勝で劇的に勝利した後、全国の遠さを突き付けられた準決勝でのタコ負け。
雨の白旗山でタイムアップ30秒前に決められ、目の前でチャンピオンリーグ進出を逃した瞬間。
それでもなんとかチャンピオンリーグに残り、最後は勝利の水をかけあって4年生を送り出した日。
どれも絶対に忘れられない感情をくれた。
そして自分にもう一度訊いた。
「区切りはつけられるか」
悩まなかった。答えは一つだった。
残り2年しかない大学生活、僕は冒頭に書いた日々を、あと2回味わうことにした。
大切な残り2年間。二度と味わえない2年間を、この大好きな組織で、大好きな仲間と玉蹴りすることに決めた。
ここで過ごすより有意義な時間はない。自分にとってはそれが答えだった。
ただ、この気持ちだけは忘れない。
今シーズンがラストシーズンだと思って。
某先輩キーパーにする相談は、辞める辞めないの話ではなく、就活の話に変わった。辞める辞めないの相談のときよりも、的確に、熱く、親身になっていろいろ話してくれている。
就活などあらゆる理由で試合に出たくても出られない日が続くと思うが、いつだってこれが最後になるかもしれないという危機感は、最高の一瞬、最高の感情を与えてくれる。
今年はどんな体験ができるだろう。どんな感情に揺れ動かされるだろう。
今月も、まずは部活の予定でカレンダーを埋め、合間を縫ってバイトを入れる。良いパフォーマンスができるよう日々自分の身体に気を遣いつつ、水曜、金曜はおはようLINEをして朝5時に車を飛ばして朝練へ。
今日が最後かもしれないと全身全霊で毎試合挑み、勝てば心から歓喜し、負ければその日は寝られないほど悔やむ。
#11 道明紫音