小林翔悟(3年/GK/魚津高校)
路肩に高く積み上げられた雪はいつのまにか姿を消し、ついさっきまで白銀の世界の中にいた僕の目の前には鮮緑の芝生が広がっている。春の到来である。僕にとっての春の風物詩はというと、それは桜である。4月になっても視界に花屑を観測できていない事実を鑑みると、松阪の言葉の引用ではないが、「思えば遠くに来たもんだ」と感じずにはいられない。
時は平成末期。本州では桜が開花を迎え、新元号の予想に世間が沸き立っていたころだろうか。富山県の片田舎の青年も人生の変わり目を迎えていた。
富山県立魚津高等学校
創立120年以上の歴史を誇る、富山県北東部の進学校である。かつてはゆで卵伝説こと板東英二擁する徳島商業と甲子園で大熱戦を演じ、野球の古豪として名を全国に知らしめている。(北大に来て分かったけど、こんなこと誰も知らん)
地元では、「魚津高校です!」というと盛大に崇められ自分はスターになったのだと勘違いする生徒もいるようだが僕も例外ではなかった。僕より優秀な人々との新たな生活が待っている!
―はずだった。
「あっ、もしもし。小林翔悟君ですか?」
「は、はい。そうですけど。」
「入学おめでとうございます!入学式で新入生代表のあいさつをおお願いしたいんだけど、いいかな?」
「え…。あ、わかりました…。」
がっかりだった。周りのレベルの高い環境が欲しかった僕はひどく失望した。別に学力が全てではないということは、今になれば理解できるが、当時の僕はその考えに至らなかった。
想定外だったのは勉強面だけではなかった。放課後グラウンドに行くと、そこにはサッカー部の格好をしてバレーボールで遊んでいる男達がいた。
「あの、サッカー部に入りたいんですけど…。」
「新入生?あの部室に荷物置いていいよ!」
サッカー部の先輩らしき人物が指さした先にあったのは、衝撃的に狭く汚い空間だった。
おいおい、嘘だろ?
話を聞くと部員11人。富山県U18リーグ3部所属(富山県は4部まである)らしい。
思ってたんと違う
つい1週間前まで広々として明るかった視界が急に闇に覆われていく感覚。
そんな環境の中でスタートした高校生活は思い描いていたものとは遥かに乖離していた。道明は自らの高校時代を「青春」だと表現していたが、僕にとっての高校時代を表すとすれば…。締め切りまで思いつかんかった。アキごめん。
兎にも角にも富山県でも最弱レベルのサッカー部は富山第一戦での0-15の歴史的大敗、4部リーグへの降格といった連敗街道をひた走り、気づけば高校2年秋。自分達の代を迎えていた。僕は悔しかった。シンプルに。現実を認めることができなかった。
進学を迷っていた高校は1部リーグで奮闘していた。かっこよかった。それとは対照的に顧問も練習に来ず、少ない人数でだらだら練習をし(グラウンドに女子生徒が現れると僕も含め目の色を変えて頑張るのだが)、当然のように負けていく集団。
「何のためにこの高校に来たんやろ。」
「あの時中部か東行っとれば1部で出れとったんになー。」
こんなことを本気でほざいていた。最弱チームの一員であったのにもかかわらず、自分のGKとしての自信は富山湾よりも深く、立山連峰よりも高かった。
3年になりチームは少しばかり力をつけ、3部に昇格を果たすも、高校総体では初戦で姿を消し、僕の高校サッカー人生は幕を閉じた。
しかし、ここでキーグロを外す決断ができなかった。僕は三井寿並みに諦めが悪かった。前述のとおり、GKとして謎の自信があったし、やっぱり未練があった。絶対に大学でリベンジするのだと心に決めた。
p.s.
高校同期達へ
理不尽なこといっぱい言ったし、暴言も吐きまくったし、くそみたいなキャプテンで本当ごめんな。今でも帰省したら集まるくらいには仲良くしてくれてありがとう。大好きです。これからもよろしく。
長く苦しい受験生時代を終え、富山からはるばる北海道へと北上した。大学生活の始まりである。桜咲く前に北大サッカー部に入部することを決めた。すぐにレギュラーの座を確保してやるのだ。意気揚々と屋内運動場に乗り込み練習に参加した。
思ってたんと違う
全く通用しなかった。面白いぐらいに。シュートの威力も、プレースピードも、GKに求められる役割の多さも、何もかもが違った。高校時代の自信は過信であった。
冷静に考えてみれば当然である。富山県の高校4部から北海道の大学1部である。レベルの差は天と地であった。
全くシュートが止めれない。体が動かない。バックパスをスルーして味方のオウンゴールにする(辻野さんごめんなさい)。ビルドアップって何?
高校時代までの僕はビルドアップとはただイキってパスを回しているだけだと本気でおもっていた。
一方、同期のGKはそのレベルにすぐに適応しているように見えた。
「めちゃめちゃうまいやんけ、この人。」
完全に1年目GKの「じゃねー方」であった。
当然のようにIリーグB(3軍相当)に配属され、大量失点を繰り返す毎日。入部するときに描いていた理想とは程遠い毎日。自分のGKとしての強みってなんだっけ。
自信を失う日々。サッカーが嫌いになった。ほなしね。もうサッカーはやめにしよう。今までサッカーありがとう。
―とはならなかった。
さっき言ったではないか。富山湾よりも深く、立山連峰よりも高い自信(過信)があったことを。どれだけ評価されなくても、いつか北大の守護神になって活躍できると確信していた。根拠はないけど。要は馬鹿なのである。
ただ圧倒的に実力がなかった。心は守護神になれると信じてやまないが、頭で冷静に考えるとずーっとベンチ外が関の山だった。苦しかった。どうやったら試合に出れるのだろう。自分のGK像を模索する日々。
1年9月頃の練習だっただろうか。その当時はTOPがうまくいってなくて北大は2部降格の危機に瀕していた。当時4年の茗荷英史氏(以降ヒデさん)がこう言った。
「俺はコバ推しなんだよなあ。飛び出しの判断が良い。」
ニヤついていた気もするしそれが冗談半分であることはなんとなく分かった。でもこの言葉は以降の僕のプレーの一つの指針となった。ヒデさんだけでなく当時の4年目は大変すばらしい先輩方であり、今後も目標にしていきたい。
「もしかしてTOP行けるんじゃね?」
元来、生粋のお調子者である。途端に調子が上向いた。
そしてヒデさんの同期・大嶽航希氏(以降ダケさん)の教えも大きかった。
「仕事をしないキーパー」
ダケさんの理想のキーパー像は上記のものである。自分のプレー機会を最小限に抑える。すなわちコーチングで味方を動かし、未然にピンチを防ぐ。
ダケさんは僕と同じく身長が低く、身体能力も高くなかった。
ほんとはプレミアリーグで見るようなビッグセーブがしたい。でも自分が北大を勝たせるGKになるにはこの道だと思った。
ここから小さなブレイクが始まった。新人戦でスタメンを張ることができた。結局その試合には勝てず自分はまだまだであると思い知らされた。
年が明け、僕らは年目旅行をしていた。その夜に北川と白石に勧められて見たブライトンVSリヴァプール。衝撃的だった。
ブライトンはリヴァプールがどれだけプレスをかけてきてもGKとCBでつなぎ続け、ボールを前進させていった。ただのイキりパス回しをしているわけではないということが馬鹿にも理解できた。何より魅力的なサッカーであった。あんな風にパスを回し続けて相手を崩したい。純粋にそう思った。
それからの練習は楽しかった。自分はエデルソンであると言い聞かせ、プレスが来てもなるべくパスをつないだ。ボールが前進し相手FWの背中からは失望感があふれている。気持ちよかった。明らかにうまくなっている感覚があった。
新シーズンが始まると、僕は北大の守護神としてピッチに立っていた。これについては運要素が強めであったが、何はともあれ1年間戦い抜き、1部残留に貢献できた。
昨シーズン感じたことがある。それは、単純に自分は実力不足であるということである。
「仕事をしないキーパー」といっても、限界がある。1試合1本はどんなチームでもピンチは来る。自分がゴールを守る最後の砦であることは忘れてはいけない。
「何が何でも無失点」
これを口癖・モットーにして、今シーズンはより成長した姿を部員・OBの先輩方に披露する。
そして僕は既に大学3年生である。来月には21歳の誕生日を迎える。時の流れは速い。もう年取りたくねえって。最近体感時間についての話を聞いた。ジャネーの法則というやつだ。もう既に体感時間では人生の半分が過ぎ去っているというのだから驚きである。すこし脱線したが、言いたいことはもっと部員同士本気でぶつかり合いたいということだ。ここまで2年間北大サッカー部で過ごしてきたが、本気でぶつかり合っている場面を見ることは稀有であった。特に僕らの年目はその傾向が強い。仲良しなのはいいけど、本気でぶつかり合うからこそ得られるものは偉大だと思うし、今以上にかけがえのない関係性になれると思う。それは大学生にもなっていろんなことを犠牲にしてサッカーをしている僕らの特権だ。さっきも書いたが、井田氏の代は良い見本である。彼らは結構厳しく言い合い、互いを引っ張り合っていた印象がある。偉そうなことをつらつら書いているが、僕自身も全然できていないのでまだまだこれからである。一緒に成長していこうね。
今シーズンはかなり厳しい戦いを強いられることが予想されている(毎年のことかもしれないが)。本郷氏をはじめとする頼りになる黄金世代は引退していった。でも負けるつもりはさらさらない。
説田がある日こう言った。
「札大に勝った時の感情ってどんな感じなんだろう。それを知るためにサッカーをやってる。」
彼は本気で言っていた。こんな熱い仲間とサッカーをやれていることは幸せだ。その感情を味わえるように、みんなで切磋琢磨していこう。
意味の分からない入りからよくわからない終わり方になってしまいそうです。一応文学部だし、最近読書にもハマりだしているというのにもかかわらずこの有様です。
ブログをお読みいただきありがとうございました。ついに札幌の桜の蕾もほころんできましたね。
さあ、開幕に向けて頑張ってこう!
#1 小林翔悟