益田紘洋(3年/ FW / 尚絅学院高校)
「若い頃の借金は貯金や」
自身の人生経験に基づきこう語るのは、お笑い芸人の明石家さんま氏。若さというのは非常に価値があるもので、若さあるうちに何事も犠牲を惜しまず挑戦することの重要さを説いているのだと解釈ができる。
「大学は人生の夏休みだよ」と教えてくれた先輩のInstagramには、机に並べられたお酒、ダーツ、シーシャ、海外旅行、BBQ、ディズニー、エモい写真、派手な髪色、男と女の6人組くらいのグループ(いつメン最高)
「大学生ってすっげぇなあ」
そう思っていた高校生の僕が、多くの人が想像するそのような“煌びやかな”大学生活(諸説あり)を今現在送っていないと知ったら、勉強をやめてしまっていたかどうか。
僕は今、50人程の男たちと共に、汗水流しながら球を蹴っている。
高校時代。自分の希望した高校とは別の高校に行くことになり、そこでの3年間は学校に身を任せ、自分の意志で何かを成し遂げたなどの成功体験は殆どない。勿論、中学で1番熱を注いだサッカーも例外ではない。放課後に設けられた「強制自習タイム」から逃げるためだけに入った部活では、顧問が用意した練習を淡々とこなし、その場限りのいいプレーをすることに満足し、気付いたら負けて引退していた。
部活動として断片的に残っている記憶には、友達の家に泊まりに行ったり、練習を無断でサボって行ったTWICEのライブでミナが投げたタオルをキャッチしたり…
僕が幸運なことはさておき、サッカー中の記憶が殆ど思い浮かばない。情熱を捧げる何かがなかったため、学校で与えられた勉強をこなし、晴れて大学生となった。
大学1年生の頃は、入学前に思い描いていた大学生活を送った。バイトやサークルで出会った友達と朝まで遊んだり、旅行に行ったり。
「うんうん。大学生出来てるぞっ」と毎朝心の中で呟き、風を切って大学に行く。悪くない。なんの不自由もなく充実した大学生活を送ってる最中、こんな言葉を耳にした。
「今この瞬間が1番若いんだよ」
この言葉が起業を促す自己啓発系の広告か、はたまた婚活アドバイザーがいつまでも理想を下げられない女性に向けて行った提言を目にしたのか定かではない。しかし、言葉の発信者の意図とは異なり、ただひとり大学生の心臓を貫き、致命傷を負わせたことは事実である。余りあるほどの時間で、新たに行動を起こすこともせず目先の楽しさを求めていた僕は焦燥感に駆られた。そしてそれは、忘れていたサッカーに対する気持ちに気づかせてくれた。
思い返せばサッカー漬けだった中学時代。地元にあるクラブチームに所属し、放課後は練習に向かい、休みの日に遊ぶ時は必ずボールを持って行った。けど、チームや自分の実力が上がり、上のレベルでプレーをすることになると、サッカーが青天井であることを何度も痛感させられる。好きだからという理由だけで続けてきたサッカーは、進路選択の際には足枷のようにまで思ってしまった。「勉強と両立できるほど器用じゃないから」との言い訳を先々でして回り、逃げることを正当化した。
大学という限りある時間、好きなことを全力でやると決めた僕にとってその対象はサッカーだった。好きだったが逃げてしまったサッカーをもう一度頑張りたいと思い、2年生からの入部を決意した。
入部してから現在、膝の靭帯を断裂して以来怪我が続き、サッカーができない時間が多くあった。たまに自分を見失いかけることもあるが、部員のメンバー争いや熱いゲームを見る度に自分も早くその中に入りたいと胸が高鳴る。高校時代に想像していたような大学生活と比べると煌びやかさに欠けるかもしれない。だが今はとても楽しい大学生活を送らせてもらっている。自分史上今この瞬間が1番旬なのだから、1番好きなことを全力でやろう。
#77 益田紘洋