思えば遠くへ来たもんだ

松阪叶翔(2年/MF/東急SレイエスFCU18)

アイドルの結婚

ファンの多くが推しの幸せを願う一方で、多大な喪失感にも苛まれる。

とはいえ、推しを失ったブルーな気持ちは大して長続きしないし、ソワソワして何も手につかなくなるのも最初のうちだけで、しばらく経てば傷も癒えてそれぞれまた日常へと戻っていく。

最近では元乃木坂の西野七瀬が結婚した。

僕の周りにもいわゆる「西野七瀬ロス」に陥るやつが後を絶たなかった。でもやっぱり数日後には誰もその話をしなくなった。今ではみんな何事もなかったかのようにケロッとしている。

そんな西野七瀬の乃木坂卒業曲

『帰り道は遠回りしたくなる』

 帰り道は 帰り道は

 遠回りをしたくなるよ

 どこを行けば どこに着くか

 過去の道なら迷うことがないから

サビのこの一節について、秋元康はかなり芯を食った良い歌詞を書いている。曲中では慣れ親しんだ環境を旅立つことへの名残惜しさを日常の様々な事象に例えているのだが、ここは特に洒落た言い方をしていて、自分にも少し響くところがあるので聞くたび秋元康に一本取られた気持ちになる。

高校時代、同世代のトップ層の選手たちと自分との実力差に圧倒された。自分なんかが遠く及ばない場所に彼らがいるという現実にようやく気付けた。だからこそ大学ではサッカーじゃない別のことをやろうとすぐに決心できたし、サッカーをやめることへの名残惜しさはあまりなかった。

高校最後の大会で負け、引退が決まった瞬間は今でも思い出したくないくらい本当に悔しかったが、同時にそれまで感じていた色んな重圧から解放されて清々しくもあった。始めた頃は単純に楽しかっただけのサッカーが、いつの間にか自分にとって重い枷となって、想像以上にきつく縛りついていたのだと痛感した。

だからこそ本気になってサッカーをすることとは少し距離を置きたかった。スタメン争いとか戦術とかには正直もうウンザリだった。始めた頃のように何も考えずだらだらと玉蹴りがしたかった。

もうサッカーはやめにしよう。やれるだけのことはやってきたし、十分頑張ったじゃないか。本当によくやった。

バイバイ、サッカー。

13年間ありがとう。

本当に楽しかった。

大学では別の道に進むけどお互い元気でな。

お前のこと絶対忘れないから~!!“

こうして僕とサッカーとの13年間にも及ぶ超大作は完結したのだった。

~fin~

ん?何かおかしい、、

じゃあ、いま自分は何をしているんだ!?

サッカー部に入っているじゃないか!

他のことをやるんじゃなかったのか!

戦術のしがらみが嫌で、

仲間との競争が嫌で、

楽しくサッカーがやりたかったのだけなのに、、

サッカーに未練があった。

やめる決心がつかなかった。

やることがそれしか見つからなかった。

色々な理由があって今もサッカーを続けている。

朝4時に起きて眠い目をこすりながら自転車を漕いで、大して体も動かないのに朝からサッカーをすることが楽しいわけがない。

ボッコボコで、隣の牧場から羊やらの糞尿の匂いがする土グラウンドでサッカーをして楽しいわけがない。

遅刻したら100m×50本ダッシュさせられるのに楽しいわけがない。

謎の理由で先輩たちが突然ごっそりいなくなるのに楽しいわけがない。

でも、今だって頭の中はサッカーのことばっかで、サッカー中心に生活を考えている。しかもこの現状には自分自身かなり満足している。

訳わからん。

自分でも理解できない。

やめるんじゃなかったのかよ。

楽しくやるんじゃなかったのかよ。

秋元康、俺を題材に一曲書いてくれよ。

この矛盾をうまいこと一曲にまとめてくれよ。

4歳の頃、幼稚園の先生に褒められたことがきっかけで始めたサッカー。あの頃の自分もまさかここまで長続きするとは思ってなかったんじゃないだろうか。

「思えば遠くへ来たもんだ」

カッコつけてブログのタイトルをこれに決めたが、何日か経って冷静に読み返したら恥ずかしくなったりするのだろうか。推敲のため読み返している今でさえ相当恥ずかしい。この文章が誰にも読まれないことを心底願っている。

#17 松阪叶翔

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