アスナロノキ

山田悠貴(2年/DF/逗子開成高校)

小説を書きました。以下本文です。

『アスナロノキ』

ある日の昼下がりのことである。山田と高波は大通公園で珈琲を飲んでいた。

「ユウキ、お前ソフトモヒカンやめたのか?久しぶりに会ったから最初誰かわからなかったぞ。」

これは昔からのことなのだが、彼は私のことを”ユウキ”、私は彼のことを”テッサン”という愛称で呼ぶ。

「もうソフトモヒカンじゃねぇ。思春期に入ったんでな。今は2ブロマッシュだ。」

モヒカンは、アメリカ先住民族のMohawk(モホーク)族の戦士がその髪型だったことに由来する。

「先輩の坊主の再来を渇望してる人は多いけど、俺のソフトモヒカンの再臨を待ち望んでる人は残念だが誰もいないらしい。」

「それはそうだろうな。お前のソフトモヒカンを見るより炊飯器を見てた方がよっぽど面白い。」

彼が象印に就職したなんて聞いてない。そんなことより、もう新社会人が働き始める頃か。

大通りを吹き抜ける疾風と雪解けは春の到来を告げている。

「で、北の地での生活はどうなんだ?この1年間で色々あっただろうし、教えてくれよ。」

彼は蝦蟇めいた黒目で尋ねてきた。

この1年間を脳内再生してみる。本当に色んなことがあった。YouTube 始めてみたり、前期に8単位落として現実(留年)が見えてきたり、合宿がクソつまらなかったり、同期の多くと言い合いしたり、全く試合に出れなかったり。思い返すと、裸足でマイナス宇宙に逃げ込みたくなるような羞恥心や、感じたことのないくそみたいな敗北感を反芻してしまう。長いようで短かったし、短いようで長かった気がする。ジャネーの法則の外側にいるようだった。

「刺激的な1年間だったよ。象牙の塔に籠ってて全然うまくいかない年だったな。最初に思い描いたサッカー生活とはかけ離れたものになった。」

西日が照らす吉岡染の珈琲-もうすでに冷えてしまった-は、この先の不安を具現化しているようだった。

「でも壁にぶち当たって気づいたことがいっぱいあった。当たり前のことだけど、感謝を忘れないとか、サッカー以外のことも全力でやるだとか、人と比べないとか、そうことに気づけてなかった。」

「人と比べないこと」は『おくのほそ道』を読んだり、Tさんと喋ったりして気づいたことだけど…。

「ユウキ、お前はアスナロノキになれ。」

彼はブローカ野から言の葉を搾り取るように言った。

「アスナロノキ?」

なんだ突然。日本語とも外国語とも聞き取れない単語。初めて石神井を耳にした時の感覚のようだ。

「翌檜って書いてアスナロって読むんだ。別名ヒバともいう。材質が檜(ひのき)より少し劣るから『明日は檜になろう』って名付けられた木があるんだ。アスナロの稚樹は成長が遅いんだけど。」

「『あす』はひのきに『なろ』う、か。いいネーミングセンスしてるな。でもヒノキより劣ってるってのが残念だな。それならヒノキの方がいいんじゃないのか?」

「いや、ヒノキになってはいけないんだ。」

「なんでだ?」

「ヒノキは日陰で成長できないのさ。」

-日陰で成長できない。
思い当たる節がある。自分は昨シーズン、日陰にいた。学生リーグはおろかIリーグのベンチさえ入れなかったことの方が多い。新人戦も出れなかった。悔しさと同時に怒りがあった。何故自分を選ばない?そういってたいした努力もせず時間だけが経っていった。

「この先、また思うようにいかない時が必ず来る。そういう苦しい時でも、アスナロのように日陰を脱出するまで努力するんだ。」

彼は大通公園に佇む、紅萠ゆるテレビ塔を見ながら言った。

事実、それは自分へのアドヴァイスであると同時に彼が彼自身への戒めとしているようでもあった。

「それに…」

「それ…に?」

「ヒノキの枝に小鳥は止まらないんだ。」

-止まらない小鳥たち
心の奥底に閉じ込めた模糊たる懺悔の声が溢れ出す。

「ヒノキのように光を全て自分で吸収すると、下草が育たず、ヒノキ林に棲む生物はいなくなっちまうんだ。小鳥もその1つさ。それに比べてアスナロはある程度光を下草に届ける。アスナロの枝に小鳥は止まるんだよ。」

-アスナロの枝に小鳥は止まる。
この1年間、仲間についてとても考えた。練習では互いにバチバチに、練習後は毎回のように飯に行き語り合う。そんな小さな幸せが自分の支えになっていた。例え誰かがハズレの代とか老害の代と言おうが、俺は同期が一番好きだし、サッカーでギャフンと言わそうと思ってる。決心はついた。誰も辞めさせない。最後までみんなと戦う。

アスナロノキ。

大器晩成の象徴で、ヒノキになろうと努力し続け、小鳥たちが集まる謙虚な木。

今シーズンどうなるかわからない。でもアスナロのように足掻き、戦う。不貞腐れてる暇はない。こっちが挑戦者なのだから。

辺りを見回すと、外はもう夜に片足を突っ込んでいた。

もうすぐ彼は新千歳に向かわなければならない。

「久しぶりに会えて良かった。わざわざ札幌まで来てくれてありがとう。」

               、、   「ああ、次会う時はアスナロの戦士でな高波ユウキ。」

そう言って彼は燦々たる札幌の街並みに消えていった。

彼の行方は誰も知らない。

あとがき
 同期のみんながめっちゃいいエッセイを書いてるのを見て、自分は小説なんて書いてていいのだろうかと、自問自答し夜しか眠れなかった。正直、傑作だと自信を持って送り出せた代物じゃないし、最後までエッセイに変えようか悩んだ。でもそれじゃあ骨の燃えかすが俺を許してくれないんだよ。そんな葛藤を抱えながら、Billy Joelの『piano man』を聴き、あたかも傑作を書き上げたかのような優越感に浸る。ブログで逆張れるのは2年目までだと信じて。

末筆になりましたが、松阪文庫出版局の山口大谷地氏、そして最後まで読んでくださった皆様にこの場を借りて深くお礼申し上げます。

#北大サッカー部推理小説研究会(HSS)

#KANAGAWA KENZINKAI

#行くよ全国

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