言葉にできなくて

武市真之助(4年/GK/札幌北高校)

「話すのが上手ですね」とよく言われる。
実際はそんなことはない。確かに、表面的な事実を並べて、論理的に話すことは得意だ。
だけど、僕はそれしかできない。
自分の心の底で抱えている感情を上手に捕まえることができない。
まして、それを相手に伝えることなんて、滅多に出来ない。
でも、相手に思いを伝えてみたくて、表面的で、当たり障りがなく、感情の籠っていない言葉をつらつらと並べてみたりする。

2025年10月25日
アイリーグ最終戦。多くの同期が岩教グラウンドで、サッカー人生最後の時を過ごした。怪我や不調で4年間苦しんだ仲間が、全力でサッカーをしているだけで、凄くうれしかった。そして、そのピッチには同期で4年間ライバルだったゴールキーパーの小林翔悟がいた。

本格的にキーパーを始めた中学校から必ず同期にはキーパーがもう一人いて、実力も近いことが多かったが、スタメンをほぼ半分ずつ分け合うほど、しのぎを削ったのは彼が初めてだった。そして、彼とは特徴がまるで違った。セービングを得意とする自分に対し、彼はキックや裏のボールのケアが得意だった。キーパーは「止めてなんぼ」という考えで、メンバー選考をする人たちには「あいつより俺が上手い」と何度言ったかわからない。翔悟にだけは負けたくなくて、彼の方が調子がいいなと思った時も素直に肯定できなかった。だからこそ、彼のことを、本気で試合中に応援できたことは一度もない。

そんな彼の最後の45分が始まった。心の底から思う、素晴らしいプレーだった。

試合が終わった。逆サイドのベンチに向かい、手当たり次第、同期にねぎらいの言葉をかけた。
でも、翔悟には、声をかけられなかった。

目と鼻の先にいても、手持無沙汰に携帯をいじっていても、なんて声をかけていいかわからなかった。
一歩踏み出しては、諦めて。目が合いそうになってはそっぽを向いて。
まるで、好きな子に告白する前のように、モジモジしていた。
結局彼に何を言えばいいかわからないまま、いつものように何を言うわけでもなくハイタッチをして、グラウンドを去った。

そして、10月26日の最終戦。
試合は1-2で敗戦。
少し気づいていたはいたが、その週は調子があまり良くなかった。
ただ、それにしても酷かった。キックも、得意だと思っていたセービングも、何もうまくいかなかった。出られなかった4年生に醜態を晒しているようで、「まだプレーしたい」なんて恥ずかしくて思えなかった。

試合後は、たくさん泣いた。人前で泣くのは中学生以来だった。

そして、ミーティングも終わり、写真撮影タイムが始まった。
少しグラウンドをぼーっと眺めながら、思い出したように彼のもとに駆け寄った。
「ありがとな」

小さな声で。これしか言えなかった。

すると、彼は強く強く僕を抱き寄せ、背中をポンポンと叩いてくれた。
僕はそれで十分だった。

彼に限らずサッカー部のみんな面白い人たちばかりだが、彼はすごく面白い。同期や先輩、後輩どんな人の懐にも入っていける度胸と面白さと人間性を持っている。
だから、キーパー練習や練習後のご飯に彼がいると、楽しい。
でも、俺は面白くなくて、翔悟が俺に話しかける理由はない。
後輩が三人入ってからは、二つのグループに分けてアップをしていたから、さらに会話も減った。

でも、俺は好きだった。
最後までバチバチしてたけど。
周りに不仲と言われ、気にしてないと言いつつ、本当はもっと話したかったけど。
何を話していいかわからないから。

でも、あの瞬間は嬉しかった。
きっと彼は特別な感情を抱いていないと思うし、ここまで来たら執着しているようで、気持ち悪いとさえ思っていると思うが、それでも、何を言われたわけでもないけど、嬉しかった。

最後まで面と向かって伝えられなかったけど、このブログで、うまく言葉に表せない僕の心の底にある何かが彼に届いていたらいいなと思う。

追記
ここまでブログを読んで頂いた皆様、ありがとうございます。個人的な思いばかりを書くブログですみません。
最後に、4年間北大サッカー部でお世話になった全ての皆さま、本当にありがとうございました。皆様との出会いが、北大サッカー部にいた最大の価値だと僕は思っています。
本当にありがとうございました。
本当に幸せな4年間でした。

#28 武市真之助

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