お前も鬼にならないか

佐野泰治(1年/MF/県立静岡高校)

初めまして。1年の佐野泰治です。自分の思いを書きました。

中学3年のGW
部活勢が徐々に受験勉強にシフトしていく中、クラブチームに所属していた僕はいまだにグラウンドでボールを蹴っていた。志望校にも受かりそうな成績。サッカーの方もキャプテンをやって、試合にコンスタントに出場。順調だった。
しかし、想像以上に簡単に歯車は狂った。
負けたら敗退、勝てば突破のクラブユース選手権の大一番。1-1で迎えた後半。FWである私の前にボールが転がった。ゴールに押し込んだ。まさに劇的弾。しかしその劇的弾が不可解なオフサイド判定で取り消しになって敗退。
監督からは私のせいだと言われてクラブユース選手権は静かに幕を閉じた。
ここから監督からの理不尽は増え、チームメイトからのあたりも強くなっていった。
試合をすれば味方から怒鳴られ萎縮してミスをし、また怒鳴られるという負のスパイラル。
監督からは試合に勝とうが負けようが、私がよかろうが悪かろうが毎回キャプテンをやめるように言われた。
そして梅雨は明け夏になった。
その日の練習試合もいつもと変わらずCBでスタメンだった。毎回私のところでビルドアップが詰まるお決まりの流れ。ただいつもと違ったのはボール奪われた後、私が相手を押し倒してPKになり、失点したこと。いつも以上に負のスパイラルに陥った。
「そんな下手くそな奴にパス出すな。」「なんでそんな下手くそなんだ」
味方からそんな声が聞こえた。
ハーフタイムになった。監督からプレーのダメだしをされた後、キャプテンをやめろと言われるお決まりの流れ。そしてこの日は前半で交代させられた。
味方はどこにもいない気がした。
そしてこの日キャプテンをやめた。
家に帰って考えた。試合を休むことを。練習を休むことを。スパイクを脱ぐことを。しかし、休まないプライドがある私にとってそのハードルは高かった。本音にプライドが蓋をした。それでも行きたくなかった。自分が納得できるような「行かなくていい理由」を探した。
その理由として勉強に出会った。
塾を使って練習を休むようになった。その時間猛勉強した。成績は急激に伸びた。塾で何
人も友達ができた。勉強が私の心のよりどころになった。
「俺は勉強をして、あいつらとは違う道を生きてくんだ。」
そう思うことで練習に行ったとしても周りからの声も文句も理不尽もたいして気にならなくなった。ますます勉強にのめりこんでいった。
そして厳しい冬が明け春になった。
当初の志望校とは異なる、地域のトップ高に入学した。苦しい時間が長かった分報われたという気持ちが大きかった。しかし、サッカーは完全に嫌になっていた。だから女子部員が多い陸上部に入って新たな道に進む予定だった。
でも気づいたらサッカー部にいた。
そして気づけば公式戦に出ていた。気づけばその部活を好きになり、仲のいい友人もできた。気づけばそのサッカー部が勉強以上のよりどころになっていた。
学校でサッカー部の友達と話して、部活に行って、サッカー部の友達とそのまま塾に行く。週末はサッカーでつぶれる。たまにオフになればサッカー部の友達と塾へ行く。
充実していた。
そして高2のインターハイで悔いが残ったことが大きくて、再びキャプテンになった。
このメンバーだからこそ勝ちたい。このチームで上に行きたい。サッカーをみんなで思い切り楽しみたい。そんな思いが強かった。勝つためにもがいた。しかし、チーム作りは難しかった。静学のFに0-6で負けたり、新人戦で県大会すら行けなかったり。そんなことを繰り返した。とにかく勝ちがついてこなかった。
焦る。
このままでは16は無理だと。監督やチームメイトと何度もミーティングをした。それでも勝ちきれなかった。焦りはどんどん大きくなっていった。いつしか最初に決めたことも完全に忘れていった。
とある日の練習試合。ビルドアップが上手くいかない。いつも同じ選手のところで詰まってしまう。そこで奪われ何度もピンチになった。
「そんな下手くそな奴にパス出すな。」
気づけば自分の口からそんな言葉が出ていた。そいつもまた負のスパイラルに陥った。まるで中学時代の自分のように。自分が今までで一番傷ついた言葉で他人を傷つけた。自分の信念を完全に曲げていた。キャプテンになった時、「自分のようにサッカーが嫌いになるような人間を出したくない。」そう誓っていたのに。
結局最後のインターハイは県16のはるか手前で、僕が終了間際の決定機を外してあっさりと敗退した。周りも僕も号泣していた。
必然だった。僕が外すのは。自分の芯を曲げるような人間が外すのは。
情けなかった。不甲斐なかった。口先ばかりで何も成し遂げられなかった。中学の時あん
なにも嫌いだった連中と自分は変わらいように感じた。チームの勝負弱さが自分のせいだと確信した。
高校に入っておれは強さを求めた。
楽しくサッカーをやることが一番大切だとわかっていたのに
こんなやり方では本当の強さは手に入らないとわかっていたくせに
何度も無意味な怒声を繰り返し
何ともまあ 惨めで 滑稽で つまらない話だ
受験期を経て北大に合格した。
葛藤した。サッカーを続けるかどうか。自分がサッカーをする資格があるのか。このままでは終われない気持ちと、自分はもうサッカーをやらない方がいいのではないかという気持ちがあった。
そんな時、自分が傷つけてしまった男と話した。そしてあの時の試合のことを再び謝った。
「気にしてないし気にしなくていい。静高のキャプテンとしてがんばれ。」
そんなことを言われた。本音だとは思わないし、許してもらっているとは思わない。(現に俺は中学時代のことを許せていないし)
無責任だし、都合がよすぎるけど、俺はサッカーを続けるラストチャンスを受け取ったと解釈した。
もらったチャンス。このまま中途半端で終わる気はない。絶対に芯を曲げる気はない。勝負強い選手になる。有言実行できるようになる。誰かがきついときこそ助けられる、苦しい時こそポジティブであり続けられる選手、人間になる。
本当の意味で強くなる。
まずは明るくプレーする
そして試合に出て全国へ行く
さあはじめようか。宴の時間だ。


#48 佐野泰治

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