説田周(4年/FW/横浜翠嵐高校)
俺は変化に疎い。
入学してまもなく始めたスーパーのバイトは辞めることなく遂に4年目にさしかかろうとしている。
スパイクはずっとアシックスだし、大学で皆がスノボを始める中、未だスキー板にしがみついている。
そもそもサッカーをやめるという選択肢を取れぬまま15年が経った。
はっきり言えば変化は疲れるから好きではない。
やけに長い冬だった。
昨年10月末、最終節に打って付けの劇的な展開で勝利をつかみ、満足げに引退していく先輩たちを横目に見ながら最後の冬が始まった。
冬は毎年こんな感じで始まる。
思えば、2年前の東海も3年前の旭教も最後の試合は劇的で、引退する4年生はどこか充実感に溢れているように見えた。
休む間もなくやってくる次の練習で、人が少なくなったことと目の前に臨むべき試合がなくなったことに寂しさと心の空っぽを感じ、それでも惰性のようなものに引っ張られてサッカーを続ける。
そうして気づけば札幌には雪が降り、外ではサッカーができなくなっていくのだ。
そこから何か問題を起こして3ヶ月間の部活停止になるところまでのお決まりルーティンに沿って今冬も、、、、、、とはならなかった。
その代わりにこの冬は個人でも部活単位でもいろんなことが変化した。
個人の変化はチームの主将になったことと選抜の選考会に呼ばれ、進撃の北海道選抜としてデンソーカップに出場したこと。
主将になった。
もうキャプテンはやらないと決めていた。
白石も言っていたけど組織の上に立つとどうしてもチームの、誰かの悪いところばかりに目がいって全然楽しくなくなるからだ。
実際のところ、俺以上の適任者は何人かいたから、ならなくていいはずだったし、それまでは世界で一番仕事量の少ない職位で部門をこなしていて、組織のことなどあまり関心が湧かなかった。
居心地のいい席でずいぶん呑気に過ごしていた。
ところがどうしたもんだろう。
主将になったのはたぶん色んな理由があるけど、まさやが部活を辞めたことと詩竜がやらなかったこと、自分より主将らしかったその2人の決断が大きな理由だと思う。断じてイチサンがやらなかったからではない。
4年生の引退後、詩竜とは2人で話した。詩竜は「周がやったほうがいいと思う」と言っていた。そんなわけはたぶんない。
いささか消極的な理由も含まれるがそれでも最後は俺自身の意思で俺がやると決めた。
それと時を同じくして、デンソーカップに向けた北海道選抜の選考会があった。
選考会ではサッカーってこんなにパスが回るもんなのかと衝撃を受けたのを覚えている。
その後は終始呆気にとられていたわけだが、どうしたもんだかゴール前でボールが目の前に転がってきて、わけも分からぬままに左足を振ると、リーグ戦ではそのすべてのシュートを止められたGKからゴールを奪っていた。どうやら奇跡が起きたらしい。
そうして年が明け数週間後、北海道選抜のメンバーに名を連ねていた。いつかまさやに「デンソーに選ばれる」と宣言したのを思い出した。
デンソー期間のことを書き始めるとこれまたブログが一個できてしまいそうなので端折るけど、鮮烈で衝撃的な17日間だった。
部活内でもたくさんの変化が起こった。
五大戦の開催とそれにまつわるクラウドファンディングやイベント、スポンサーの契約、トレーナーの招聘に筋トレの組織化、遅刻欠席ケガ人のルール変更とマニュアルの変更、部門の増設、カメラの購入、人工芝化プロジェクトにフロンティア基金の引き出し、法人化への動き出し、休部者関連、新歓の方針と入部面談、理念・スローガンなどなど、、、挙げればきりがない。そう、本当にきりがない。
自分がただの平部員であったらその全部をどうでもいいと片付けていたであろう事象が一気に押し寄せてきて、どうすればチームのためになるのか意見を求めてきた。
考えれば考えるほど頭が痛くなって、考えるのをやめた。
他の首脳たちはこの膨大な検討事項に対して一つ一つ意見を出していて、どうしてそんなにもすらすら意見が出てくるのか、不思議でたまらなかった。さらに彼らは本当にチームのことを考えた発言をしていて、その的確さと真摯さが俺を困らせた。
首脳陣の熱意に反した冬特有のチームのモチベーション低下は俺ををさらに混乱させた。
俺は変化に疎い。はっきり言えば好きではない。だから、この変化の流れに取り残されないようにしがみつくことしかできなかったし、それしかしなかった。
意見もろくに出さず、「それで良いと思う」と何度繰り返したことか。
でも、これらの「変化」の効果は俺が参加しなかった五大戦で表れた。3ヶ月も外でサッカーをしてないのに優勝したのだから。進むべき方向は間違っていないようだ。
チームがが変わっていく中で、変わることに消極的な自分は置いていかれてるように感じてた。
どうしようか一丁前に悩んでみたがあまり意味がなかった。
転機は5ヶ月ぶりくらいのグラウンド練習。
果てしない大空の下、泥んこになってボールを追いかけた。
そのうちに悩んでることがどうでもよくなった。
どんだけ悩んでも答えが出ないときがある。そんなときはそれ以上考えずグラウンドに出ていけばいい、きっと解決するから。
ボールは丸い。迷った足で蹴ったって当たりゃあどこかへ飛んでくれる。そのボールを追いかけるだけで、悩みなどはどうでもよくなるくらいに俺はサッカーを愛してきていた。
今の部員には改革者みたいな人がたくさんいて、俺は到底このようにはなれない。彼らは先を見据えて行動してる。それはすごいことだと思う。
でも俺は目の前のボールをわけも分からぬまま蹴るように生きてきたから、その瞬間に全力を尽くすことしかできない。
どっちがいいとかではない。
大事なのは、グラウンドに出て何を悩んでたか忘れるくらい「バカ」になれるかどうかだ。
季節の変化は好きだ。
そして最近は物事の「終わり」の方を意識する。
雪が解け、桜が散り、そしてそして。
最終節は誕生日前日。
明日からは22歳になるまでの最後の大勝負です。
#5 説田周