岩満章仁(3年/FW/奈良学園登美ヶ丘高校)
『人を元気にすること』
それが得意な人、それを漠然とした将来の夢にしている人、恋人や友達にそこが好きと言われたことのある人。たくさんいるんじゃないだろうか。
『背番号』
すべっている背番号でお馴染みの58番
俺には幼馴染の男がいる。彼とは1歳の時から同じ保育園に通い、同じサッカースクールに入り、同じ中学、高校に通い、もちろん同じ部活に入っていた。
彼はすごいやつだった。俺が今まで出会った中で、間違いなく一番運動神経はいいし、マラソン大会は保育園から高校までずっと1位。ストイックで、勉強もできたし、とにかく何もかもがトップレベルだった。中学の頃から、高校のリーグ戦に出ていたし(中高一貫なので、出ることが可能だった)、公式戦用のユニホームは、いつも10番だった。自分で言うのもなんだが、いいコンビだったんじゃないかなと思う。彼は俺にはない真面目さ、上手さでチームを引っ張っていってくれたし、俺は声を出したり、盛り上げ役を担当していた。
中学1〜3年の夏ごろまでは、お互いなんだかんだうまくいっていたし、このまま続くのだろうなと思っていた。
でも、夏を過ぎた頃に彼に何か異変が出だした。あんな真面目な彼が、宿題をやらなくなっていた。宿題忘れで居残りさせられ、部活に
顔を出す回数も減っていた。あの時は、まだ誰も気づいてなかった気がする。
そしてコロナになり、6月ごろから高校が始まった時からは、彼はあまり学校にも来なくなっていた。勉強にも、サッカーにもストイックだった彼には、少しずつ身体に負荷がかかっていた。高校1年の自分は、自分には元気にできるものだという甘い考えを持っていた。
彼はどんどん精神的に追い込まれて行った。そして、学校に来るのも難しくなった。その時にどっと後悔が押し寄せた。今まで元気にしていたのは、もともと元気な人が、ちょっと落ち込んでいる時に元気にしていただけだった。もっと早く気づいていれば、もっと話を聞いてあげていればと。
そこから彼は、学校にもほとんど姿を現さなくなった。そして高校2年生が終わった。
高校3年生の時、少し状態が良くなったのか、授業や部活に現れることがあった。そして迎えた高校最後の大会、インターハイ。結果的に、対戦チームは県で準優勝したのだが、そのチームに0-1で敗北。このチームでサッカーができないことが悔しくて涙が出たし、彼とのサッカー人生が終わったことが何よりも嫌だった。
自分のことでいっぱいいっぱいの受験期に、なんとか彼を元気付けようと時間を見つけて話をした。それでも、やっぱり前みたいに戻ることはなかった。どこかで諦めがでてきた、もしかしたら彼は元気にならないのじゃないのかと。
彼とは大学で初めて別れることになった。そこでサッカー部に入った自分は、背番号を選ぶことに。空いている背番号にいわゆる良いものがなく、またLINEでの早いもん順だったこともあり、既読が早い二人に、6番、11番をあっさり取られる。ほとんど話したことがない奴らに、「どんだけ暇やねん」とつっこんだ記憶がある。そこまでこだわりがあったわけではないので、高校時代につけていた61にしようと思った。LINEのノートに
『岩満章仁、61番』
と打とうとしたその時ふと思い出した。自分が今まで出会った中で、最も上手かった選手のことを。やっぱり、彼を元気にすることを諦めれなかった。自分がその番号をつけてプレーして、どこかで彼がそれに気づいて、それで元気になってくれたら。
彼の背番号は58。
今日から俺も背番号58。
今日から俺と彼の背番号が58。
『岩満章仁、58』
俺にとっては、めちゃくちゃ重い背番号で、58をつけて下手なプレーをしたら彼に見せる顔がない。彼は少しずつ良くはなってきているけど、今もまだ万全とは程遠い。でも、俺たちを繋げているのはサッカーだ。遠く離れた彼に、ここから元気を与える。彼の目には届かないかもしれないけど、些細な行動が彼の体調を良くするかもしれない。
すべってる、ダサい背番号を俺たちにとっての最高の背番号にしてやる。
『今日から俺も』
追記
今年の高校の初蹴りで彼と出会い、その時ユニホームを来ていたので、「58なんや」って言われた。
ほんとは「君を元気にしたくて。君の分まで頑張りたくて」と言いたかったが、恥ずかしくて言えなかった。でも、これが本音です。
どこかでこのブログが回って彼に伝わればなと思う。やっぱりもう一度君とサッカーがしたいし、君がサッカーをするなら俺たちの58をつけて欲しい。頑張ってる人に頑張れって言うのは良くないってわかっているけど、本気で頑張って欲しい。
#58 岩満章仁