一握の砂

下田和舞(2年/GK/札幌光星高校)

皆さん、こんにちは。
北海道大学体育会サッカー部新2年の下田和舞です。
出身は札幌光星高校で、ポジションはゴールキーパーです。
現在サッカー部においては首脳陣の一人としてチーム運営に携わらせていただいています。

趣味は読書、特技は積読。あと最近友人に勧められて韓ドラにはまっています。阿部慎之助、川島永嗣と続いた憧れの矛先は、いまやパク・ソジュンに向いています。
最近前歯が折れました。びっくりしましたが、全然痛くないので無問題です。

新チームになり一発目の選手ブログ、責任重大です。この重責に応えるために、ここでは普段なかなか打ち明けることのなかった本音を書いていこうと思います。最後まで読んでいただけると幸いです。



あの夏の瞬間が、今でもふとした瞬間に蘇る。照り付ける日差し、重く湿った空気、蝉の鳴き声、揺れる相手ゴールネット、スタジアムに響き渡る歓声。ピッチに立って、歓喜に走り出す仲間たちの背中を後ろから見る自分を誇らしく思えたあの時間は確かに現実だったはずなのに、どこか夢のようでもあった。

全国大会。多くのサッカーエリートからすれば、何ら変わりない一つの大会であるが、僕にとってその舞台は、サッカーを始めた当初からの憧れの舞台であった。その舞台で、決して諦めず泥臭く戦い抜き勝利したという事実は、なんだって成し遂げることが出来るという自信に変わっていた。
全国大会での経験は、自分にとっての何よりの勲章だった。誰よりも練習した自負はあったし、仲間との努力が結果につながったあの瞬間を、僕は何度も思い出していた。

けれどいつしか、その記憶は「誇り」を超えて「過信」へと変わっていった。自分なら戦える、通用する。そんな思い込みが、心のどこかに住み着いていた。
1年間の宅浪の後、北大サッカー部に入部してからも、自分は最初から前線に立てる、チームの中心でいられると、疑いもせずに思っていた。

思い描いていた未来は、こんなにも遠かったのか。そう思ったのは、シーズンが開幕して間もない頃だった。始めは、1年ぶりにするサッカーがただ楽しかった。しかし次第に、フィジカル、技術、求められる判断力のどれをとっても今の自分の能力では及ばないことに気が付いた。高校での「自分らしさ」は、ここでは何の武器にもならなかった。

そして何よりも苦しかったのは、自分の身体が、自分のものではないように感じる瞬間が増えたことだった。1年間プレーから遠ざかり、試合勘も運動能力も、確かに失われていた。頭ではわかっているのに、足が動かない。手が出ない。跳べない。入部してからずっと、理想と現実との狭間で葛藤を繰り返していた。
あの頃の自分を思い出そうとしても、手のひらからこぼれていく砂のように、上手く掴むことはできなかった。

でも、本当はわかっていた。その「1年間の空白」を、僕はどこかで言い訳にし続けていた。「仕方ない」「まだ本調子じゃない」。そう口に出すことで、自分を守っていた。大丈夫、努力が足りないわけじゃない。そうやって逃げ場を作っていた。

気づけば、プレー中に迷うことが当たり前になっていた。判断が遅れ、ミスが増え、苛立ち、自分の不甲斐なさに試合終了後に人目を憚らず涙を流したのも、一度や二度ではなかった。日々の練習や北翔大学戦での5失点。自分の株は下がり続け、自己嫌悪に陥り、心にじんと冷たいものを感じるようになった。自分だけが取り残されているような気がして、帰り道の電車の窓に映る顔でさえ、どこか他人のように見えた。

同期が結果を残し始める中で、ベンチにも入れず、ただ声を出す日々。悔しさややるせなさよりも、「サッカーを続ける意味」を見失いかけていた。高校の仲間が関東や関西で活躍するニュースを見るたびに、胸の奥がチクリと痛んだ。その痛みにも慣れてしまうのだろうか。そんな自分が、何より怖かった。

目に見える転機なんて、ついに訪れなかった。だけどある日、ふとした瞬間に気づいた。夕暮れのグラウンドの隅で、地道に自主練習に励む同期の姿。試合に出られなくても、誰よりも声を出し続ける先輩。ここぞという場面で結果を出してくれた4年生。それまで見えていなかった「本気の人たち」の姿が、不思議と心に刺さった。

僕は、いつからだろう。周囲の評価や、見られ方ばかりを気にしていた。年目代表としての役割をこなし、多くの同期や先輩とコミュニケーションをとり、チームに陰ながら貢献する模範的優等1年生だと評価してほしい。「アイツはまだやれる」と思われたい。そんな外堀だけの感情に縛られて、本当に向き合うべき「自分自身」をいつの間にか見失っていた。
目立たなくても、評価されなくても、まっすぐに努力を積み重ねている人たちは、ずっとそばにいたのに。

焦らなくていい。今の自分を、ほんの少しでも認めてあげるところから始めよう。そう思えるようになったのは、つい最近のことだ。チームのために、もう一度頑張ってみよう。また一歩踏み出してみよう。そう思えたのは、「もう一度、自分のことを誇らしく思いたい」と感じたからだった。

思い描いていた未来は、思っていたよりも遠くて、不器用で、思うようにはいかなかった。だけど今なら、あの日の自分に胸を張って言える。「人生まだまだ、終わってねえぞ」。
理想にはまだ届かない。悔しさや不安だって、きっとこれからもついてくる。でも、見栄や建前を脱ぎ捨てた今の自分なら、愚直にサッカーに向き合える。未来を信じることができるようになった。

全国大会に憧れていた少年の続きを、僕は今ここで生きている。手のひらの砂を、今度こそ握りしめたまま。どこまでいけるかなんてわからないけど、この場所で、北大サッカー部と共に、あの夏の続きを描きたいと思っている。

#21 下田和舞

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