高橋莉久(3年/FW/苫小牧東高校)
得点が入るその瞬間、ピッチ上の一切の響きが凍りついたかのように静まり返る。周囲の観衆は、その一瞬、時間が止まったかのように感じるかもしれない。そして、一斉に湧き上がる歓声が、その静寂を破る。仲間たちは疾走し、抱擁し、喜びを分かち合う。彼らの顔には、汗と喜びの輝きが宿る。今までの疲労など忘れた軽い足取りで自陣へと戻り、再び鳴る始まりの笛とともにピッチを駆け出す。そんな最高の感覚が脳裏から離れなくて、もう一度味わいたくて、僕はサッカーを続けている。
2023年7月30日。僕は色々あった8か月のブランクから復帰して二か月弱。北大のサッカーに対して徐々に頭と体がついてきていた頃だった。その日の夕方に行われた練習試合の三本目、センターバックの内海が相手センターバックのクリアをトラップし顔を上げる。相手バックラインが乱れてきていて、左サイドの裏にスペースができていた。絶好の裏抜けスポットである。ボールを要求して走り出したその瞬間だった。右のハムから嫌な音が聞こえた。同時に激しい痛みが走る。過去にも経験したことのあった感覚だからすぐに察した。肉離れである。近くにサテライトリーグの試合も控えていたし、最悪な気分だった。本人は覚えていないと思うが、試合後白石が「次サテライト使おうかと思ってたのに」なんて言ってきた。怪我をしてしまった自分へのいらだちを感じていたところに、とどめの一発を食らった気分だった。後日病院に行ったとき、2週間くらい様子見て痛みが引いたらプレーしていいといわれたため、切り替えて前を向くことにした。ちょうどお盆のオフが明ける頃が2週間だった。まあそこから復帰できればいいか~と思って、トレセンに行ったりしていた。さて、お盆休みも開けて復帰初日。足の痛みも治まっている。なんか今日は調子が斜め上くらいかもしれない。この休みが心と体のリフレッシュになったのだろうか。久々のサッカーに喜びを感じていたそんなとき、再び不快な音と痛みが右ももに走る。再発だった。次の日、晴れない憂鬱な気持ちと一緒に病院へ向かう。当然診断の内容も処方された薬も前回と同じ。またトレセン通いの日々が始まった。復帰するころにはほんの少しだけ大きくなってるかもなーなんて想像しながら。この頃の僕は、まさか復帰するころにベンチプレスの重量が60キロ近く伸びているなんて想像してもいなかっただろう。ほんの少しとか言ってたけど、3キロとか体重変わってるよお前。MMAならスーパーライト級に階級上がってるって。そう、僕はこのけがをなかなかうまく完治させることができなかった。結局同じ足の肉離れを3度再発、逆足を新たに肉離れしシーズンを終えた。ほんとにあり得ないほど早く、あっけなくシーズンが終わってしまった。悲しきトレセンモンスターの誕生である。
怪我をしている期間、何度も部活をやめようか迷った。長くプレーできていない間に部活へのモチベーションが低下し、気づけば筋トレのほうがやる気が出てきていた。部活に復帰したとき、大学サッカーで通用する体を作ると意気込んでいた、サッカーの副産物であった筋トレがいつの間にかサッカーへの気持ちを上回っていた。冗談で言っていたはずの部活は筋トレのための有酸素運動、という言葉がどんどん自分の本心に近づいていたかもしれない。俺、筋トレしまくってブライトンのメディカルトレーナーになろうと思う。とか言ってた時期とか今思い出したら結構モチベなかったんだろうなーと思う。
でも、どれだけサッカーのモチベが下がってもそれがゼロになることはなかった。どんな形や大きさになってもサッカーに対する情熱が心に残っていた。そんな中でやめたら絶対後悔すると分かっていたし、部活に入るという選択をした過去の自分を否定しているみたいでいやだった。あと、一年生の頃に同じカテゴリーでプレーしてた同期のこばしょーは定期的に、あの時のお前の復活待ってるって言ってくれる。そんなやつがいるのに、ここでやめるのは逃げだとも思った。何よりそんなこと言われて、自分で自分を諦められなかった。こんなこと言うとお調子者のこばしょーは調子に乗りそうだから文章にしようか迷ったけど、彼は最近メンズコーチにはまっているらしいので自分を律してくれることだろう。
そして今、長い休止謹慎期間を乗り越え、3年目のシーズン開幕に向けて練習している。鎧になるはずだった筋肉に適応できていなかったり、ハムストはしっかり治ってるけど次は腰に怪しい痛みを感じていたり、、まだまだ思うようにプレーはできていないし不安は大きい。でも、それでもサッカーはやっぱり楽しい。北大サッカー部という環境がいい。向上心の塊みたいな人間ばかり周りにいて自分もやらねばという気持ちにさせてくれる。まだまだ自分は成長できると感じさせてくれる。今シーズンの目標は怪我をしないことを大前提に、身体を戻しながら本気でやるサッカーを楽しむことだ。部活をやれない期間にいろいろ考えてみたが、高校時代のサッカーはもっと楽しんでいた気がする。でも決してそれは緩くやってたとかふざけてやっていたとか、そういう類の楽しいではなかった。雨天で中止かと思ったら中止にならなかった日も、最初の集合ランシューでいいよと言い渡されたときも、練習の最後に絶対きつい走りがある黄倉先生の練習も、その一つ一つを部員同士で盛り上げながら本気でこなす。お互い高めあって、試合の勝ち負けに一喜一憂して、また本気で練習する。部活の楽しいってきっとそういうことなんだと思う。まだ自分には練習を楽しめるほどの身体の余裕がないけど、シーズンを通してまたサッカーを楽しめるようになっていたい。もちろん他にもこまごまとした目標はあるが、太い幹の部分はここで忘れないようにシーズンを過ごしていこうと思う。
最後になりましたが、平素より北大サッカー部を応援・支援してくださっている皆様、本当にありがとうございます。
今後も北大サッカー部をよろしくお願いいたします。私の拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。
#75 高橋莉久